平和の詩
赤紙
石川 とみえ
お隣から大きな栗の枝が
風の中に 可愛い芽ぶき
その下の 小さな赤いトタン屋根
三月七日の大雪に生まれた坊やも
花がらの小さな布団で一ヶ月
昼下り どこかで軍歌とどよめき
電報です ナゴヤレンタイに
赤紙のしらせ
私の顔見つめ配達人は念押して帰る
早く早く知らせないと・・・・・・
でもー
あなたが知らないうちは昨日と同じ
知らないうちは 坊やと私だけのお父ちゃん
知らせないうちは あの紙が来ないのと同じ
さあ ねんねしましょう
今はまだ昨日の続き
ほら 今度の靴音
小さな丸い ちゃぶ台
今日は爆撃がなくて
日毎 二人の願い ふくらませた
小さな寝顔 その横に見つけてしまっ紙
なぜ早く知らせない 間に合わぬ
すぐ仕度だ
私が破り捨てたら私の罪
あなたは何も知らず悪いのは私
知らない人には罪は無い筈
だめだ二人とも 重営倉
田舎じゃ出征の用意してる
立ち上った あなたは もう
優しいお父ちゃんではなく
大声で泣き続けた私は
あなたを困らせていたばかり。
やよい炎上
石川 とみえ
お雛さまは きりりと焼ける覚悟
せめて私の人形だけ
持ち帰るのを母は許さない
実家より海に近い疎開先を危うがる
さよなら繰返し背の坊やと
見届けたお雛さま
母達は庭の防空壕に続くトンネル掘り
それが煙突になって
高射砲隊に並ぶ浜松商業校
門前の文具屋も焼けるだろう
その夜空襲が終り 低い二階の窓から
北の木立遠く赤あか燃える火は
母の辺り あの焔の下に
何も持ち出せなかった
焼け出され無一文を悲しむたび
鞭打つ様な私の言葉より
身代わりの人形は
優しかったことだろう。
井桁菱形
石川 とみえ
あの戦争は 三井三菱
もうけの手だてと囁く
いつでも地球にぴたり 桁を組み
吸上げた石炭 労働者の血
土地の利権 金貸利息
戦後 会社名義を ぞろぞろ分けても
成り上り 雨後の筍会社と 競い合い
ますます公害車大発生
虫達を殺し 土を殺し 木を枯らし
石油タンク吸い上げ口に
光る御紋の井桁菱形
アメリカ南部 油業元締め大統領
ひそひそ議会に 武器屋の肩代り何人
イラクに売りつけたドル財で
トマホーク実戦 夢見ていた紳士達。
【著者紹介】
石川とみえさんは、1923年生まれ。浜松市入野町在住。詩人会議会員。